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青森地方裁判所 昭和28年(行)9号 判決

原告 乗上喜一郎

被告 斗川村議会

一、主  文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告が昭和二十八年三月二十六日原告に対してなした一箇月間出席を停止する旨の決議はこれを取り消す、訴訟費用は被告の負担とする」との判決を求め、その請求の原因として次のとおり陳述した。

(一)  原告は昭和二十六年四月六日施行せられた村会議員選挙において当選した被告議会の議員である。

(二)(1)  昭和二十八年三月二十六日会期を一日間として招集せられた被告議会(定員十六名、一名欠員)は午後一時十分開会し、出席議員十四名、議長欠員、副議長村井太郎欠席したので、会議は仮議長によつて第九号ないし第十九号議案が審議せられた。

(2)  議長は第十四号議案を表決に付したが、原案賛成七名、反対三名、多数をもつて原案どおり決定する旨宣言したのに対し、原告はその宣言に異議申立をなし、他の議員これに賛成し、その間、議長と原告とのあいだに異議申立の能否につき応酬があつた。

(3)  由来、斗川村は政争烈しいところであり、伝統的に自由、改進の両党間に抗争をつづけてきているものであるが、自由党、議長派議員はかねてから反対党議員、特に原告にふくむところあり、多数をたのみ、前記異議申立の能、不能に対する原告の応酬を目して議場を混乱せしめるもの、議場の秩序を乱すものであると称し、原告に対して懲罰を科する動議を成立せしめ、反対党議員の退場を好機として、自派議員七名の賛成をもつて原告を「向う一箇月間出席停止する」旨の決議をなし、議長は午後六時二十分休憩を宣告した。

(4)  なお、本会議は午後六時四十分再会せられ、議長は続行会議を昭和二十八年三月二十九日午前十時開会する旨を宣告して散会し、当該議会は同月二十九日予定どおり閉会した。

(三)  しかしながら、被告議会のなした右決議は次の理由により違法のものである。すなわち、

(1)  被告議会会議規則第四十条には「議長の宣言に対し二名以上異議ある場合は、投票によつて決を採らなければならない」旨規定しているから、原告の異議申立に対し一名の賛成者あるときは、投票によつて決しなければならない。

議長と異議申立者との間に意見を異にする場合は、その疑義につき検討を加うべきはもちろんであつて、多数をもつてその論議を制止することは民主政治の原則に反するものである。

単なる疑義の応酬を目して、議場を混乱せしめるもの、議場の秩序を乱すものと速断することはもとより違法である。

(2)  仮に原告において、地方自治法第百二十九条議場の秩序維持に関する規定に違反したとしても、元来、村議会の懲罰に関し必要な事項は、会議規則にこれを定めなければならないものである。しかるに、被告議会会議規則には懲罰に関する規定は一も存しない。したがつて、いきなり地方自治法所定の罰則を適用することは違法である。

(3)  しからずとするも、村議会の議員に議場の秩序を乱す言動があつた場合には議長は必ずこれに対し地方自治法第百二十九条による所定の措置をとつた後でなければ、当該議員を懲罰に付することはできないものである。しかるに、本件の場合にあつては、議長においてその措置をとらずにいきなり原告を懲罰に付しているのであるからもとより違法である。

(4)  しからずとするも、村議会の議員に対する出席停止処分は必ず当該議員に送達されなければならないものである。しかるに本件の場合にあつては、被告議会のなした決議は原告に送達されておらない。

(5)  仮に以上の主張がいずれも理由がないとしても、招集した会期一日間(なお、昭和二十八年三月二十九日への会期の延長は所定の手続を経ていない無効のものである)を超過し、向う一箇月間出席を停止する旨の処分をなしたのは、会期不継続の原則に反し、違法である。

よつて、原告はここに被告に対し右決議の取消を求めるため本訴に及んだ次第である。

なお、被告議会が昭和二十八年九月二十九日その主張のような決議をなしたことは認める。

被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、答弁として次のとおり陳述した。

(一)  原告の主張事実中(一)は認める。(二)のうち(1)、(2)は認める。(3)は被告議会が原告主張のような決議をなしたこと及び会議の経過は認めるが、その他は争う。(4)は認める。

(二)(1)  当日、原告は議長の決定宣言に対し異議ありと叫んで議長の制止もきかず、又その許可も得ず恣に発言怒号して議会を混乱に陥れ、議場の秩序を乱したものである。

議長と意見を異にしたからとて、自由に発言を許さるべきでなく、多数決の原則に従うのが民主政治である。

原告の右行為は被告議会会議規則第二十四条、第五十三条に違反し、ひいて同規則第一条、地方自治法第百三十四条、第百三十五条により懲罰に値することが明かである。

しかして、本件懲罰は六番議員沢山力造の懲罰動議があり、正規の賛成のもとに議題に供せられ、その際の出席議員九名中、過半数である七名の賛成を得て(いわゆる役場派議員七名賛成非役場派議員一名中立、仮議長は決に入らなかつた)、適法に決議されたものである。

(2)  懲罰に関し必要な事項は、会議規則に定めなければならないのに、被告議会会議規則にその定めないことは原告主張のとおりであるが、会議規則に定めがないからとて懲罰を科することができない趣旨のものではない。

(3)  議員が地方自治法第百二十九条議場の秩序維持に関する規定に違反した場合、該規定違反の事実を直ちに懲罰の対象となすことはなんら違法ではない。いわんや、本件の場合にあつては原告は議長の制止をもきかなかつたのである。

(4)  原告に対する出席停止処分の通知書は即日作成し、直ちに斗川村役場内において原告に直接交付しているものである。

(5)  又、被告議会では昭和二十八年九月二十九日(本訴提起後)の村議会において、原告に対する右出席停止処分につき会期(なお、昭和二十八年三月二十九日への会期の延長は所定の手続を経ている有効のものである)を超過する部分を取り消す旨の決議をなしているものである。

要するに、原告の主張はいずれも理由がなく、本訴請求は失当である。(各証拠省略)

三、理  由

(一)  原告が被告議会の議員であること、被告議会が会期を一日間として招集せられた昭和二十八年三月二十六日の村議会において原告を「向う一箇月間出席停止する」旨の決議をなしたこと及びその後の会議の経過については当事者間に争がないところである。

しかして、原告は本訴において被告議会がなした右出席停止処分が違法であるとしてこれが取消を求めているのであるが、他方、被告議会が昭和二十八年九月二十九日(本訴提起後)の村議会において、原告に対する右出席停止処分につき、会期を超過する部分を取り消す旨の決議をなしていることも当事者間に争ないところである。

さすれば、現在の段階においては、右決議全体の取消を求める原告の請求は、もはや訴の利益を欠くに至つたものといわなければならない。

(二)  なお、附言するならば、元来、村議会の議員に対する懲罰の一である出席停止の「期間」については地方自治法には明文の存しないところであり、会議規則に規定を設けることになるわけであるが、地方自治法第百十九条に規定するいわゆる会期不継続の原則の根本精神に鑑みるときは、その「期間」はその会期中の一定期間に限定せらるべきものと解するのが相当である。したがつて、被告議会が原告に対してなした会期(招集せられた会期は一日であり、仮に昭和二十八年三月二十九日への会期の延長が被告の見解どおり有効であるとしても二日の短期間である)を遙かに超過し、向う一箇月間出席を停止する旨の右決議はすでにこの点において違法性を帯有していたものというべきであり、ひいては、原告が自らの権利を守るべく本訴を提起したこと(訴提起の日が昭和二十八年四月十日であることは記録に徴し明白である)も当然の成行であつたと考えられるのである。

(三)  以上の次第で、原告の本訴請求は前記(一)の理由により失当として棄却することになるが、訴訟費用は本件訴に関する前後の事情に従い、これを被告に負担せしめるを相当とし、民事訴訟法第九十五条、第九十条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 工藤健作 中島誠二 田倉整)

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